土地と季節に育まれる「江迎の酒」を造り続けて
Land and seasons nurture sake
四季のある国の酒「日本酒」は、その工程も季節とともにあります。春の田植えに始まり、酷暑を乗り越えて迎える黄金色の実りの季節、秋。刈り取られた稲穂からこぼれる米を磨き上げ、冷え込み始めたころの早朝に立ち上る、米を蒸す湯気を合図に始まる仕込みを経て、年を越し、季節がひとまわりしてようやく新酒のお披露目を迎えます。
創業元禄元年。私たち潜龍酒造は、この一連の流れを300年以上にわたり、江迎の地でひたすら繰り返してきました。昔ながらの時間と手間、そして変わらぬ愛情を注いだ国酒「日本酒」は、春・夏・秋・冬、それぞれの季節の風景の中で、食に寄り添い、また人に寄り添い、喜びや癒しを届け、絆を深める役割を担うものと信じてやみません。
潜龍酒造と蔵主・山下家のあゆみ
The beginning of sake brewing
もともと山下家の祖先は、今の平戸市田平町深月の地で、七浦奉行と呼ばれる海の護衛の任に着いていました。その後、江戸時代に入り泰平の世を迎えたことでその任を解かれることになります。三代将軍家光公が制度化した参勤交代が始まったことで、平戸から4里(約16km)の場所にある江迎の地に、平戸藩の宿泊の拠点として本陣が置かれたのが元禄元年(1688)のことです。
良い水が湧いていること、川や海が近いこと(米の搬入・酒の搬出に便利)で、酒造りに最適な環境を備えていたことから、山下家の酒蔵としての商いは、本陣としての役割とともに、ここから始まりました。
江迎本陣屋敷は平戸藩10代藩主、松浦熈(ひろむ)公より「枕水舎(ちんすいしゃ)」という名前をいただき、熈公の句に山下の苗字も詠まれています。池の上に建てられた、水の癒しのあるこのお屋敷は、平戸藩のお殿さまやお付きの方々、幕府の命を受けて江迎を訪れた人々など、たくさんのVIPをお迎えし、そのたびに季節の郷土料理と酒をお出ししてもてなしてきました。
令和の今、潜龍酒造は13代目となり、創業当時の建物や昔ながらの酒造りの技術が、江迎の地に伝わる文化のひとつとしてしっかりと受け継がれています。そして今でも、平戸藩主・松浦家の末裔の方のもとに、できあがったお酒を毎年お届けしています。
※潜龍酒造株式会社として法人化されたのは昭和29年4月であるため、前身となった「山下酒造場」の時代を含めたご紹介となっています。